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2024年 セルフケア推進への取り組み(月刊DRUG magazine 2024 年1月号特集への寄稿より)

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2024年 セルフケア推進への取り組み(月刊DRUG magazine 2024 年1月号特集への寄稿より)
【2024年 セルフケア推進への取り組み】
医療・健康産業の転換期となる年 ウェルビーイングの実現に向けた次の一歩へ

一般社団法人日本セルフケア推進協議会
代表理事(会長) 三輪 芳弘

はじめに

 2024年、我が国は医療・健康産業にとって転換期を迎える。新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが5類に移行し、生活者は以前の日常や活気を取り戻しつつある一方で、感染対策が個人の判断に委ねられた。この転換期において、セルフケアを明確に定義し、その推進が不可欠である。本稿では、日本セルフケア推進協議会(JSPA)が取り組む活動を通じて、セルフケアの重要性と展望について探ってみたい。

 セルフケアとセルフメディケーションは分けて考えるべき

 「セルフケア」と「セルフメディケーション」という2つの似た言葉があるが、その概念は全く異なる。本題に入る前に改めてここで整理しておきたい。

簡単に言えば下記の通りである。

▽セルフケア=自分の生活をよりよく見直すこと

▽セルフメディケーション=軽い病気になったら自分で治すこと

もう少し詳細に述べると、セルフケアは厚生労働省の資料を要約すれば、「自らが健康に関する関心を持ち、そして正しく理解し、病気などの予防や健康づくりをすること」となる。予防や健康づくりに軸足が置かれており、病気であっても、なくても、食事、睡眠、運動などを含む日常生活を生活者ひとりひとりに合わせて見直していくことがその趣旨である。

一方のセルフメディケーションは、WHOの定義では「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」とされており、生活者に少し厳しい印象を持つかもしれない。OTCを使って軽症疾患の症状を抑えることが中心で、QOLの改善が主な目的となり、必ずしも健康寿命の延伸にはつながっていない。また、OTC類似薬の保険給付見直しの議論と相まって、医療費抑制効果が期待されている側面もある。これは社会保険サービスの保険外サービスへの代替の議論であり、そこに軸足があるのがセルフメディケーションではないか。

この点でセルフケアとセルフメディケーションは全く異なる。セルフケアは、日常生活、未病の段階から生活者を支援し、健康寿命を延伸しウェルビーイング(身体的・精神的・社会的にイキイキとした状態)の実現が一義的な目的であり、結果として医療や介護のニーズ適正化が期待される生活者中心の考え方だということを今一度強調しておきたい。

WHOガイドラインから読み取れる通り、セルフケアはセルフメディケーションを含む大きな概念であり、セルフメディケーションはセルフケアの1つの手段に過ぎないことを確認してもらいたい。 

水都大垣セルフケア・トライアル(SOS Trial)の成果と展望

 SOS Trialは参加薬局21店舗を対象に薬局薬剤師による生活習慣修正の指導効果を測る実証研究だ。参加者は健康機器で測定した血圧など複数のバイタルデータをAI健康アプリに記録し、薬局来局時には薬剤師から高血圧治療ガイドラインに基づいた生活習慣の指導が行われた。その結果からいくつかの興味深い事実が示されている。

1.参加者の意識変容と信頼関係の構築

参加者全員が、薬剤師のサポートを通じて生活習慣に対する関心が高まり、今後も改善に向けて積極的に取り組みたいと回答しました。生活習慣への関心が高まる中、薬剤師との信頼関係が築かれた。

2.効果的なモニタリング手法の確立

血圧のみならず、複数の機器やアプリを組み合わせることで、個々に合わせた効果的なモニタリングが可能になった。これにより、参加者の健康状態をより綿密に把握し、適切なアドバイスが可能になった。

3.専門家としての医師・薬剤師の重要性

機器やアプリの利用は有用であるものの、一般の生活者が独自でセルフケアを行うことは困難であり、医師・薬剤師などの専門家のサポートが不可欠であることが明らかになった。医師・薬剤師の専門知識と指導が、セルフケアの成功に大きく寄与する。

以上の結果はJSPAが提唱した「日本型セルフケア」と「健康サイクル」を社会実装の有意性を示唆している。つまり、IT技術を駆使して効果的なモニタリング手法を実践し、医師・薬剤師など医療・健康分野の専門家の伴走の下でセルフケアに取り組むことは、そこに信頼関係の構築と行動変容が生まれ、セルフケアを持続可能な取り組みへと昇華させるものである。

 業界を1つにまとめるリーダーシップが不可欠

 生成AIの登場と普及に象徴される今日の高度な情報化社会では、変化のスピードが非常に速くなり、技術や規制、組織も瞬く間に陳腐化して社会の進展を妨げることとなる。この課題への対処には、新しい提案を積極的に取り入れ、変化を捉え迅速に判断し、自ら変化を続けることではないか。旧態依然とした考え方に固執し、斬新なアイディアを排除するやり方では何もうまくはいかない。例えば、セルフメディケーション税制はその典型ではないか。肝心の生活者の視点を考慮せず、業界振興との虚言を弄して一部企業の利潤追求の観点しか持てない者が強引に導入したために多くの生活者に受け入れられていないというのが本質だろう。

そんなことをしていてはいつまでもセルフケアあるいはその一部であるセルフメディケーションの普及など期待できない。本当に必要なことは、業界団体が身勝手な主張を展開するのではなく、全体の意見統一に向けた努力をすることではないか。医療用医薬品、OTC、医療機器、民間保険、薬局・ドラッグストア、医療機関など健康とウェルビーイングを実現するためのリソースを共通の設計図に基づいて最適化していくべきだ。まさにJSPAが目指している業界に横串を刺した建設的な議論が求められ、その議論を進める見識と倫理観を備えたリーダーシップが求められる。その体制構築が当面のミッションとなる。

 結びに

 本稿では紹介しきれなかったが、JSPAでは日本WHO協会および国立国際医療研究センターと協働で「健康とウェルビーイングのためのセルフケア導入に関するWHOガイドライン」の和訳にも取り組んでいる。尚、同ガイドラインについては本紙12月号に日本医師会の横倉義武名誉会長、日本WHO協会の中村安秀理事長との鼎談を取り上げていただいたので、詳細はそちらを参照いただきたい。

いずれにせよ、この様に2024年は規制・技術・産業の環境が整い、セルフケアの推進に向けて大きな一歩を踏み出す年となることは間違いない。その時、SOS TrialWHOガイドラインがセルフケアの未来を切り拓くキーとなる。日本セルフケア推進協議会はこれらの取り組みを通じて、生活者の健康とウェルビーイングの実現に貢献し続ける覚悟である。

(月刊DRUG magazine 2024 年1月号特集への寄稿より)

 

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