岐阜県庁にて「一般社団法人日本セルフケア推進協議会 講演会」を開催 〜 ぎふモーニングプロジェクト
2026年8月31日、岐阜県庁において、JSPAによる「ぎふモーニングプロジェクト(GMP)」に関する講演および意見交換会が開催されました。講師は京都大学公衆衛生大学院 特定助教の高山厚先生。演題は「岐阜のモーニング文化を、地域の健康資源へ ~ GMPの学術的意義と将来展望 ~」です。
「喫茶店に通うと、なぜ健康になり得るのか」を問い直す
GMPは、岐阜県に根づく喫茶店・モーニング文化を起点として県民の健康増進をめざす取組みです。講演はまずその骨格を確認したうえで、素朴かつ本質的な問いから出発しました。──喫茶店に通うことで、県民はどのように健康になりうるのか。その道筋を説明できなければ、取組みは「良さそうな話」で終わってしまいます。
社会参加は健康に効く。ただし「場を増やす」だけでは効かない
高齢期の健康を左右する要因として、運動量だけでなく「社会参加」が重要であることは、国内の追跡研究で繰り返し示されています。人が集まる場(いわゆる「通いの場」)に参加している人は、参加していない人に比べて、その後数年間で要支援・要介護の状態に至るリスクが低いと報告されています。
一方で、「通いの場が多い地域ほど健康寿命が長い」という直感的な仮説は、必ずしも裏づけられていません。生活圏内にある集会施設・飲食店・商業施設・公園などの数と健康寿命との関連を調べた研究では明確な関連は確認されず、地域ぐるみで通いの場を増やす介入研究でも、フレイル発症の抑制効果は統計学的にはっきりしたものにはなりませんでした。海外で行われた同種のグループ活動の無作為化試験でも、心の健康への効果は限定的でした。
高山先生はここから、問われているのは「箱の数」ではなく「場の質」である、と論を進めます。
現在の通いの場が抱える三つの課題
講演では、既存の通いの場が抱える課題として次の三点が挙げられました。
- 参加者の偏り:男性が参加しにくく、もともと地域につながりのある人に集まりやすい
- 運営側の負担:中心となる人物が倒れると活動そのものが消滅し、継続が難しい
- 人間関係の摩擦と閉鎖性:閉じた関係性がかえって参加者の負担になる
そのうえで、これから求められる場の条件として、誰もが自分の特性に応じて自発的に選べること(多様性と主体性)、ビジネスとして成り立ち持続可能であること、そして本当に健康につながることの三つが示されました。健康につながる鍵としては、単なる交流量ではなく、そこに自分の役割があること、居場所と感じられることが重要ではないか、と述べられました。
その条件を満たす場は、すでに岐阜にある
こうした条件を満たす場は、行政主導のサロンだけとは限りません。人が日常的に集い、ゆるやかに関わり合う「サードプレイス(第三の場所)」は、地域の中にすでに存在しています。岐阜県における、その最有力候補が喫茶店であり、モーニング文化です。
ここから、GMPが明らかにすべき問いは二つに整理されました。
①.どのような場であれば健康改善につながるのか(場の中身)
②.どのような人が喫茶店から健康の恩恵を受けられるのか(人による適応性)
どう測るのか ── Age-Friendlyという観点からの尺度開発
この二つの問いに答えるには、「健康に良い喫茶店」を主観ではなく測定可能な形にする必要があります。そこでGMPが依拠したのが、WHOが提唱するエイジフレンドリー・シティ(高齢者にやさしいまち)の考え方です。都市工学、福祉、介護、歯科・口腔医療、そして実際にカフェを運営する事業者といった多分野の専門家によるパネルを組み、二つの新しい尺度を開発しました。
Age-Friendly Café Index(AFCI) ── 喫茶店の側を7つの軸で可視化する尺度です。
- 物理的アクセス性(店までの来やすさ)
- 安全性・バリアフリー(店内の移動しやすさ)
- 経済的アクセス性(価格の手頃さ、滞在コストの低さ)
- 物理的快適性(感覚環境・情緒的な居心地)
- コミュニケーション/情報のアクセシビリティ
- 社会的包摂性・心理的安全性
- コミュニティ志向性・交流促進性
Universal Third-Place Relationship Scale(UTPRS) ── 利用する人と喫茶店との「関係」を7つの軸で可視化する尺度です。
- 空間的・機能的な近接性
- 場所への同一性・情緒的な愛着
- 生活リズムへの統合と自発的な利用
- 他では代えがたいという感覚・好みとの適合
- カフェを通じた社会的つながり・ネットワーク
- 一人でも成立する公共性(話さなくても居られる心地よさ)
- 心理的な支え・情緒的な安全基地としての機能
店の特性と、人と店との関係。この二つを別々に測ることで、「どんな店が」「どんな人にとって」健康資源として機能しているのかを、はじめて分けて論じることができます。
GMPの三つのコンセプト
高山先生は、GMPの姿勢を三つのコンセプトとして整理しました。
①.今あるものを使う ── 新しい施設をつくるのではなく、岐阜県にすでにある喫茶文化と、すでに通いの場として機能している喫茶店を活かす②.長所を見つける ── どのような喫茶店の、どのような要素が交流を生むのか。どのような人がその恩恵を受けるのかを明らかにする
③.長所を伸ばす ── 見出した知見を地域住民と喫茶店の双方に還元し、店と地域の関係を最適化していく
「良い店を選別してランクづけする」のではなく、岐阜の喫茶文化の中にすでに埋め込まれている健康資源としての価値を可視化し、当事者に返す。それによって、住民が意識せずとも自然に健康になれるまちづくりを進める、というのがGMPの筋書きです。
現在の状況と、2027年1月からのフォローアップ
現時点でベースライン調査が終了し、約42件の喫茶店、のべ848人の方にご参加いただいています。ご協力いただいた喫茶店の皆さま、住民の皆さまに改めて御礼申し上げます。
2027年1月からは、1年後のフォローアップ調査が始まります。これにより、開発した尺度の安定性と妥当性を確認できるほか、健康状態の変化やフレイルの発症との関係を、はじめて時間的な前後関係を踏まえて検討できるようになります。脱落なく追跡できるかどうかに、この研究の真価がかかっています。
今後の展望
講演後には、岐阜県職員やJSPA会員から多くの質問が寄せられ、岐阜県の喫茶文化と健康寿命、持続可能な社会参加のあり方について活発な意見交換が行われました。
行政・民間・アカデミアが協働し、地域にすでにある文化を起点として「自然に健康になれるまち」をデザインする。岐阜県の喫茶文化から、そのモデルケースを生み出すことがGMPの目標です。
<関連情報>
- 岐阜県とJSPAが協定を締結 〜 ぎふモーニングプロジェクト(JSPA NEWS)
- 「モーニング」で喫茶店に通う頻度と健康の関連を調査 岐阜県(NHK)
- ぎふモーニングプロジェクト 喫茶店を拠点に高齢者の健康モニター事業スタート 岐阜県(ぎふチャン)

